共同検討授業 中2理科 「沸点」 共同プロセス

この授業は、

  • 五ヶ瀬町の木村教諭が作った教材案を私たちがシミュレーションしたり、
  • 木村教諭が作った教案について意見を交換したりしながら、
  • 五ヶ瀬町で採用している教科書を見ながら一緒に執筆や修正を繰り返して、

当日の形に仕上げていきました。

遠隔地にありながら約5日間にわたって電子メールや電話を利用した共同作業を行い、作業を通じて、授業の運び方から教材の表現など、次のような話題を話し合いました。

活動の意図と時間配分

子どもたちが自分で資料を読んで、考えて、それを表現するという活動には、沈黙の時間が生じます。また、討論に慣れないうちは、活動中に何をすればいいのか戸惑うこともあります。予定どおり進めようとすると、生徒が活動に乗る前に次の活動に進んでいってしまい、意図を見失いがちです。そこで私たちは、

  • 今回は、通常の授業で返答を待つ場合よりさらに「我慢して待つ」ことが必要だろうということ、
  • 活動の土台となるエキスパート活動では、子どもたちが活動にのるまで、充分に時間をとってほしいこと、
  • 活動中に「何やったらいいか分からなくなったら、声掛けてね」「どんな話だった?」「今日の問題に答えるために、皆の読んだ内容はどんな役にたつだろうね」などと、クラスに声掛けして欲しいこと
  • ジグソー活動では、まず「一人一人、自分たちが相談したポイントを説明して」「ポイントを組み合わせて最初の質問に答えを出す」ことがはっきり伝わるよう、声掛けをしてほしいこと

などをお願いしました。

木村教諭は活動時間を大体の目安としてとらえることを決め、子どもたちの様子を見ながら声をかけ、当日の様子を見て時間を配分することを改めて確認しました。

グループの人数

初めは、6人のグループを作る計画でした。これについて私たちは、グループのサイズを小さくすることを提案しました。6人という規模は、子どもたち一人一人が「しっかりと自分の考えを話して」、「他の人の考えをしっかりと聞いて」、「これらを合わせて皆で考える」という活動には少し大きすぎると考えるためです。木村教諭はこれを踏まえ、グループは小さい方が話し合いは活発になると考えたので、3人のグループを作ることに決めました。

教材の数

また、6種類の教材を扱うという計画についても、減らすことを提案しました。話題の数が多いと、「忙しい」活動になる可能性があるという懸念があったためです。一人一人が考える時間をもって、他の子どもとじっくり話し合うためには時間が必要ですし、内容が多いと活動の難易度も上がります。難易度がどれも同じくらいで、最終目標に向けての貢献度も同じくらい、さらに取り掛かりやすい教材にできるとよいのではないか、と提案しました。木村教諭は教材の数が少ない方が生徒の負担が減ると考えたので、最終的に3種類の教材を扱う教案を仕上げることにしました。

エキスパート活動の意味合い

木村教諭は「エキスパート活動」で、同じ教材を読んだ者同士が話し合う活動の意図を確認しました。私たちは、「エキスパート活動」で

  • 自分たちの担当した内容を理解し、それを他の教材を分担した人たちにうまく説明するための準備をする
  • 話し合うことで自分たちの理解を確認し、話し合いながら知らない人に説明する準備をすることになる

と考えます。

eメールでエキスパート活動を解説した文面を次に一部抜粋して紹介します。

この時点で

  • 自分たちが分担した内容を理解して
  • その内容を知らない人たちに説明する
  • 説明するときに、担当した内容を知っているのは自分一人になる

ということが十分伝わっているか、確認しておく必要があります。繰り返しになりますが、資料を「読み上げ」たり、上から順に書いてあることを説明したりするのではなく、自分が読んでわかったことをうまく説明する準備をするのが「エキスパート活動」です。

ですので、詳しく言うと、その中には

  1. まず資料を読んでおおよそのところを理解する(個人作業です)
    –この時、大事なところに線を引くとか、キーワードを囲むなど後からグループで相談し合う時に互いに相手の手の内が「見て」わかるような作業をさせておくとよいようです

  2. 自分たちが大事だと思ったところをエキスパート活動のグループ内で交換し合う
  3. その活動を通して、各自はっきりしない所を質問して相互に答えを探すなどして、自分たちが資料をちゃんと理解しているかどうか確かめる
  4. 理解した中身を、分担の異なる他のグループの人に説明する準備をする
    –資料の中のどこを、どんなふうに説明すればいいか、相談する
    という作業が含まれます。4つのうち3つが、グループ内で話し合うことによって初めて可能になる活動です。

これはジグソーの経験を積み上げながらわかっていくようなことなので、子どもたちには「分担した内容をしっかり理解して、知らない人にちゃんと伝えられるようにグループで準備してね」など子どもには大きな目的だけをはっきり伝えると、活動がやりやすいことを伝えました。木村教諭は、生徒が独力でエキスパート活動の方法を確立するのは難しいと考えました。このため、通常の授業で工夫している進め方を活かして、活動の方針をマグネットにあらかじめかいておき、黒板で掲示することに決めました。

ジグソー教材の内容

木村教諭が作成した「気圧について」「水とは」「熱エネルギーとは」という3種類の教材を合わせてみたところ、問いを解くのは案外難しいことが判明しました。そこで、私たちは教材の内容を少し単純化して、問いを整理することを提案し、以下の問いと教材を提案しました。1つの資料で読み取れる内容がはっきりしていたほうが、その内容を他の人に説明しやすくなり、仲間とそれを組み合わせて納得のゆく答えを導きやすくなるだろう、と考えたからです。

問い

  • 晴れた日の海辺の気圧は普通1気圧です。
  • そこでは水は100度Cで沸騰します。
  • 高い山の頂上では、水が沸騰する温度は100度より高いでしょうか、低いでしょうか?

それはなぜか、理由も答えて下さい。
教材1:水の三態変化

  • 分子の運動により水という物質の状態が変化することに内容を絞る
  • 分かってほしいこと:水が沸騰するということは、分子のつながりが切れて活発に運動するようになること

教材2:海面からの高さと気圧

  • 海面から少しずつ登ってゆくと気圧が下がって行くことに絞る
  • 分かってほしいこと:ある地点での気圧は,そこから上にある空気の量で決まるから、高い山の上では気圧が低い

資料3:沸点と圧力の関係

  • 教科書の一部を使って、1気圧ものとで人工的に圧力を変化させると沸点がどうなるか、という実験事実に絞った教材を作る
  • 分かってほしいこと:容器の圧力をあげると沸点があがり、圧力を下げると沸点がさがる。
  • 答えの例
    高い山の頂上では、水の沸点は100度より低い

答えの理由例
山の上の方が気圧が低く、空気も薄いから、少し暖めただけでも分子のつながりが切れて自由に動き回るようになる

木村教諭はこの問いと教材を採用した上で、生徒が興味を持って問いを解けるよう、真空ポンプで水を減圧し、沸騰させる実験を導入に使うことを決めました。

記入用紙

私たちは活動を支える方法の一つとして、活動に沿って考えを記入する紙を用意することを、提案しました。担当した資料のポイントを書いたり、グループごとに発表する代わりに各自で「自分が納得した答えと理由」を書いたりすることの効果として、

  • 他の人に説明するときの準備を促せること、
  • 発表時間が限られている場合には時間短縮にもつながること
  • 「みんなで同じ答えを出す」のではなく、全員が自分の答えを「言葉にして書く」作業をすると、「一人一人、自分が本当に納得した答えが出せる」活動を大事にすることにつながり、学んだ内容の定着度が高くなること
  • 予想を書いておいて最後に納得した考えを書くと、実施者として授業の効果を把握しやすいこと

などを挙げました。

木村教諭は子どもたちの作業用に数枚の記入用紙を準備し、当日に備えることに決めました。

人数調整

CoREFで協調的に学ぶグループをつくる場合、見学者やスタッフが混ざって人数を調整する、という運営上の作戦についても共有しました。35名の中学2年生を対象にする木村教諭は、3人グループを12個作るために、授業を一緒に担当する予定の倉永教諭にグループの一員となってもらうことを依頼しました。