えるふ第9回 3人寄れば文殊の知恵?

「3人寄れば文殊の知恵」という。Two heads are better than one. ともいうらしいから英語母語話者だと二人でいいのかな?ほんとうにそうなのか、実験してみた。

まず心理学の教科書に出てきそうないろんなパズルを集めてきて、ひとりでやってもらったり、ふたりで相談しながらやってもらったりした。何分で解けるかとか、制限時間内に何割の人(組)が解けるかとか、どんな解き方をしているのかとかいろいろ比べてみた。どうなるとお思いです?ふたりの方が時間も労力も半分ですむ?そう思うあなたは効率第一主義さんかも...

ふたりの方が絶対良い、というものではなかった。パズルによるようなのだ。ふたりの方が押しなべて成績が良くなるパズルと、予想に反してそれほどでもないパズルとをそれぞれ比べてみると、それなりに特徴が見えてきた。

ふたりの方がうまく行くパズル解きに見られる一番大きな特徴は、相手が解いている最中に、何をやっているのかが見えやすい方が良い、ということである。図にあるのは典型的にふたりが得するタイプのパズルなのですが、ひとりが「こうかなー」などためしに線を引いている間中もうひとりはその線を少なくとも「見る」ことができる。ほんとに何をやろうとしているのか、心の奥底まではわからなくても、「やってること」は、見える。と、「そんなんで大丈夫なんかなぁ」とか「う、わたしならこうしてみたい」とか、相手のやり方を、少しだけ、大局的に見て(なにしろ外野なわけだから)、自分と対比できる。そこでいろいろアイディアが湧いて、「私にもやらせて」と交代すると、今度は相手が大局側にまわってこちらのやっていることをみながら別の考えを提供してくれる。こういうふたりの見方のやり取りが、互いに対して自分ひとりでは得られない幅を与えてくれるので、結果としてふたりとも、ひとりでやるより得することになるらしい。

「まぁ、そんなものでしょうね」と思われるかもしれないが、実は「相手のやっていることが見える」ことに加えて、もうひとつ、ふたりでうまく行くためには、相手がやっていることが絶対だめかどうか、にわかには決め難い方がいいらしい。図のパズルだと、相手が何か線を引いている時、そのやり方では絶対だめかどうかはその場で決まらない。だから、ある程度は相手に任せるしかない。相手がやっている間は相手についていくしかないのでますますこちらは「いろんな考え方」をしたくなってしまう。それが、ふたり共同の作業場に多様な見方を運び込んでくる原動力になるらしい。相手のやっていることに批判的になり過ぎず、でも距離を置いて相手のやっていることを冷静に「見直せ」て、それぞれ互いに相手のやることに刺激されて少し違うアイディアが湧く、というような距離が取れると、ふたりで一緒に努力することのメリットがあるようだ。

この話、単純なパズル解きだけにしか通用しない話ではない。答えのはっきりしない問題や、もっと難しい問題を一緒に解いてもらう場面でも同じようなことが観察できる。同じ問題を解いていても、たいていの場合ひとりひとりはすこーしずつ違った角度から解を見つけようとしているので、その少しの違いをそれぞれがうまく自分の外に出せるよう促して、記録でも取ってみんなで見渡せるようにしておくと、しばらくあれこれやっているうちにひとりひとりの考え方が変わってくる。web2.0といわれる「新しい」考え方が「新しい」発想を生むといわれて期待も大きいが、そこに働いている人の心の動きは、これまでも人がふたり寄ったり、三人寄ったりしてきたやり方の「いいとこどり」なのだろう。いいとこどりする仕組みがほんのちょっとわかっていれば、最新IT技術も使いこなしやすくなるのではないかと思う。

図 9点パズル

直線の一筆書きで以下の9つの点をすべて通れ。ただし途中で3回しか曲がってはいけない。

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パズルの答えはこちら。解いてみてから、どうぞ。
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